インフレーション・タックス

http://www.mof.go.jp/jgbs/reference/gbb/201306.html:Title=国債及び借入金並びに政府保証債務現在高(平成25年6月末現在) 財務省

 国の借金が1000兆円に達しました。ということは、もし年率2%のインフレが日本で定着すれば、毎年20兆円くらい政府負債が減るということです。平成23年度決算の政府歳入は109兆円ですから、これはけっこうな額です。

 インフレのことをインフレーション・タックスと呼ぶのは、こうした公債負担の圧縮効果があるからです。貧富の差なく、フローとストックの差もなく、アングラ・マネーにすら中立的にかかる(恐ろしい)税金です。

 消費税で本当に税収は増えるのか? などと問うのはだいたい消費税反対派の皆さんであるという印象を私は持っていますが、それがもたらす不況で10兆円や15兆円程度の減収を食らっても、もし消費税増税が2%のインフレを誘発するのなら、政府としてはいまや断行すべきでしょう。ちなみに現在、消費税の税収は地方消費税を除いて10兆円強です。

 日本は所得収支の黒字で貿易赤字分を支えていますが、これはもとをただすと日系企業の生産したメイド・バイ・ジャパン製品が海外で売れた利益であったり、海外債券や株式の果実であったりします。震源地が中国であれ韓国であれ、経済不振の影響がアジア、さらに世界に広がると、これらは現地通貨建てで減少したうえ、「安全資産」として円資産を求める流れで円高になって目減りします。インフレはその通貨を安くする要素にもなりますから、日本でのインフレはこれらの流れを食い止める向きに働きます。直接為替レートに介入することは世界が忌避するところですから、間接的に日本政府が取れる手段として、おそらくインフレ誘導は最強のものです。

 日本は昔ほど豊かではないし、今後も稼ぎ手の減少で稼ぎは減っていきます。お年寄りのお金の運用先を探しているのはどの先進国も同じで、過去に貯めたお金の有利な運用はどんどん難しくなっていくでしょう。日本人はビンボになりました。主に国が借金を背負っているから国民が自覚しないだけです。マクロレベルで家計が大きな借金を背負っている韓国のような社会では、危機を自覚する家計はずっと多いのでしょうが。

 そのことを忘れる手段として、あるいは視界から隠す手段として増税の先送りや社会補償カットの先送りを続けていると、いつか若者が皆さんの枕元や玄関先に立つでしょう。もちろん今の若者の枕元には、もっと先の世代が。