2012年度後期「ミクロ経済学」について

 2012年度後期の授業アンケート結果が届きました。他にももちろん返ってきましたが、「ミクロ経済学」はアンケート結果が111通しか返ってきていないのに自由回答が29件ついている百家争鳴状態でした。「レスポンス2013」の募集時期までほっておくと講義の様子を忘れてしまいそうなので、いま書いておきます。

 受講登録者数213というのは、長年あれこれ措置を取ってようやく得た適正レンジです。ただ、在籍者ほとんどが取っていた状態(300に近い状態)と比べて、どうも一番取りたい人が残った感じはないねというのが小テストを採点してみた雰囲気でありました。つまりほとんど点を取れない、予習せずに小テストに出てきたと思われる人が1〜2割いたということです。

 これを背景として、「演習問題の答えをはっきり言え」という意見が相変わらず多く寄せられたところであります。

 後期試験は80点満点ですが、4問に対して5行答えてほぼ満点……という人が実際にいます(ひとりしかいませんが)。満点は毎年いますし、今回も数名いました。つまり「何が説明のアピールポイントかをつかめている人に他の受講者より高い点をつけるのが適正な評価であり、そういう人を出すのが適正な講義様式だとしたら、現在のシステムは成果を上げている」ことになります。

 ミクロ経済学の小テストは復習して時肩を手で覚え、手で確かめないと解けません。講義を聴いただけで復習しなければ絶対に解けないといっていいでしょう。じつは、そのような(予習・復習に時間をかけないと単位が与えられない)講義が大学に求められている現実があります。おそらく来年度から埼玉大学でも、その方向に向けた大学全体の取り組みが、学生の皆さんの目に見える形で「迫ってくる」でしょう。

 また、それほどはっきりした形ではありませんが、良い評価を乱発することを避ける観点から、良い評価の付く学生の比率は一定範囲内にとどめるべきだという考え方も広く存在します。大学によっては、有の付く学生を一定比率内に抑えることをルール化しています。外部からの大学への評価も、こうした観点からの指摘がいつあってもおかしくない状態です。

 こう考えると、予習・復習のポイントすらつかめない学生が一定数存在し、それが最終評価に現れるということは、むしろ適切な難易度設定なのではないか? とすら思えます。大学全入時代を迎え、入試が学力のふるいとして意味を薄れさせるとともに、「授業についていけない人も学生証を持っているかもしれない時代の単位認定」には、こうした一種のダークサイドがつきまといます。「結果で評価する」というのは「努力量だけでは評価しない」ということであり、「運不運まで含めて今までの諸々を引きずった能力評価を受ける」ということです。その点で大学はいま改めて、社会の入口としての位置づけを求められているのだと思います。

 もちろんそうしたダークサイドにも説明責任が生じます。ポイントは学生への要求事項設定にあります。ここまて来いと学生に指示を出し、来るための講義や自宅学習指導をし、その成果を評価することはワンセットです。評価はしないけどがんばれとか言ってもそれは教師のわがままであるし、少なくともミクロ経済学受講者であれば、そんな経済合理性を欠く行動はしないでしょう。

 私の講義で皆さんに求めているものの中では「現実への応用力」「説明力」が大きなウェイトを占めています。「日本や世界の経済政策を決める人だけ知っていればいい経済学」なんか埼玉大学には要りません(断言)。でも「経済学をわかっていない人に囲まれた状況でも、今の状態はどうマズいのか説明して納得させる力」はむしろ必要です。短くてもポイントを押さえた答案に高い点がつくのはこのためですし、ポイントを押さえられない人にまで高い点を付けたら、認定が甘すぎるという(学生以外からの)批判を浴びてしまいます。

「どう書いたらいいのか教えてくれ」という要求にこたえる講義をしようと思ったら、作文の授業めいたものになってしまいます。「経済学」の余り時間などにその種のことをやったことがありますが、まあウケは最低の部類です。ただ自宅学習(予習復習)の具体的内容を示せ、量を増やせという要求は実際にあるわけですし、能力を測っておいてそれを増進させる講義はなしというのもアンバランスな話です。講義には向かない内容も、課題としてなら出せるかもしれません。この点は今年度後期に間に合うよう、少し工夫をしてみたいと思います。

 残念ながら、ここまで評価のハードルを上げるまで全員受講状態を抜け出ることができなかった経緯を考えると、「ハードルに届かない人が当然にたくさん出る講義」を続けざるを得ません。もちろん非常に安易なもう一つの方法は「数学に関する要求事項を跳ね上げる」ことですが、先ほど説明したように「埼玉大学卒業生の人生に資する経済学」はそれではないと信じていますから、それはしたくありません。新聞を読んで、そのニュースが自分の生活にどう響くか理解するのに役立つ直観的な理解を、今後とも教育目標にしていきたいと思います。そのうえで、受講者が今の人数だからできることを模索していきたいと考えます。