要するにこういうことであるのかと

 1980年代後半を皮切りにソビエト・東欧圏が市場経済に移行し、中国も開放経済に傾斜して、世界的に低賃金であった国々と、もともと市場経済を取っていた国々が市場を通してつながりました。
 このことによって一気に低賃金労働者と、その低収入家計が市場につながりました。今までだと、低賃金を武器にして輸出をてこに経済発展する国があっても、何年か経つとその国内で労働者が分け前を分捕り、家計の所得水準が向上して、それほど低価格のものは作れなくなりました。日本しかり。韓国しかり。
 ところが今回の大接合は大規模すぎて、安い輸出品、さらに労働力そのものの先進国への移動圧力が止まりません。中国はさすがに労働者への分配が増えてきて、生活水準の急速な向上による世界的な食糧危機や資源枯渇の引き金を引くのではないか、という懸念もささやかれていますが。
 先進国企業が安い輸入品に対抗するひとつの方法は、賃金の安い国になるべく工場を移してしまうことです。日本語のできる中国人を雇用して、中国に電話サポートセンターを移してしまった企業の話を聞いたことがあります。データ入力や英文のタイピングなどはずいぶん前から中近東などへの外注が行なわれているようです。
 それをせずに、先進国で輸入品と競争していこうとすると、「実質的に」低賃金労働の活用を志向するしかありません。それが正社員雇用の減少、それ以外の雇用形態(パート、派遣、契約社員)の増加と、少数の正社員への大きな要求となって現れています。
 逆に、そうした「言われたことをするユニット」をコントロールする少人数チームが企業のコアであり、そのコアにいる人間は使い倒さないと損、ということでもあります。いま話題のホワイトカラーエグゼンプションも、海外子会社・提携先、非正社員をコントロールする仕事を少しでも多く正社員に持たせ、能力を持ち企業秘密を共有する人材をぎりぎりまで使ってやろうということなんでしょうね。
 もちろん企業がうまく行かなくなれば、そのコアにいる人間は企業と共倒れする恐怖に脅かされながら、企業を存続させるべく消防士のように問題に対処して回ることを強いられます。
 もっと大雑把なことを言えば、市場経済のリムには、FAOの推定でまだ8億を超える栄養不足人口がいます。市場メカニズムには良くも悪くも「既得権を剥いでしまう」ところがあって、日本の多くの家計が苦しんでいるのは、主に賃金という形で先進国ならではの成果分配を受けていた既得権を、いきなり剥ぎ取られたところにあるわけですね。