地域振興券と戻し税システム

 地域振興券という商品券がむかし配布されました。個人消費を伸ばすために、「一定期間内に使わないと無効になるお金」を刷って配ってしまおうという計画。

 これを経済学っぽく批判すると、ふたつの点に集約できると思います。ひとつは、「他のお金が貯金に回るだけだから、消費を増やす効果は普通の所得と変わらない」というもの。経済企画庁(当時)の調査では、「地域振興券使用額の32%程度」の消費が純増であったとのこと。平均消費性向は(いろいろ調査によって違いますが、貯蓄動向調査報告→家計調査年報貯蓄・負債編のように家計からアンケートする形式のデータで)過去一番低かった時期で70%くらい、近年は90%を超えていますから、現金を配ったほうがまだましではなかったか、とも思えます。

 もうひとつ問題なのは、このとき税を戻す対象者を、各種の経済弱者と思われる間接的な条件で決めていて、ちゃんと所得を調べていないし、所得によって受給額を変えてもいないこと。所得再分配政策として、精度が低いのです。

 日本は戦時中に源泉徴収制度を導入して、それから今まで税務署は何もしなくても、給与所得の大半が勝手に報告されてくる仕組みです。税務署の体制・規模もそれに合わせたコンパクトなもので済んでいます。全納税者が所得を報告してきたとき、本当かどうかいちいちチェックするとしたら、もっともっと人手がいるはずです。

 グローバリゼーションが進んで、所得(とくに企業の所得)はつかみづらくなり、国から国へ移転される所得も増えてきました。日本が日本国から世界国日本県になったようなものです。日本に住み、日本の社会サービスを受ける人から税金を取るために、消費税のような間接税をもっと取るか(これだって源泉徴収と同じで、税金を間違いなく取るのが楽だから、というのが大きなメリットです)、直接税をもっと手間をかけてちゃんと取るか(消費税導入当時、八田達夫先生が「直接税改革」という著書でこういう主張をされました)、どちらかが必要です。

 間接税に多くを頼る場合、中立性・逆進性をやわらげるために、直接税システムを使って税金を戻してやるという手段があります。累進税率をあまり高くすると、いちばん才覚のある人たちが働く気をなくしたり、外国に逃げてしまったりします。それを避けるためには、日本で言う消費税をガボッと取って、ほんとうに所得の低い人に税金を戻してあげれば、才覚のある人のやる気をそがずに累進所得税と同じ分配を実現できます。最近、OECDは日本に対して「負の所得税」創設と間接税の税率アップを提言したようですが、こうした理屈によるものでしょう。

 経済学の理屈だけから言えば、直接税をちゃんと取っても、消費税から主に税収を得るようにしても、どっちだっていいのです。貯蓄も将来の消費が前提なのですから、所得の時点で税金を取っても、消費の時点で取っても、同じことです。「経済学的に最適な」所得再分配というのはありません。政治の場で妥協して決めるしかないのです。税金の取り方だって同じ。どう取っても税金は悲しいものです。誰がどこまで我慢するかは政治の場で決めるしかありません。

 どちらにしても、税務署の態勢をもっと強化して、再分配をきめ細かく、重大な抜け穴が空かないように行うことがますます大切になります。人口減少などで日本全体の経済力がもうあまり伸びそうにない現在、再分配に関する選択肢はどれもこれも不景気なものになります。そこで所得再分配のメニューまで狭いとしたら、ますます国政を愚痴が覆うばかりで、不満の大きい選択肢しか残らなくなりそうです。