過剰流動性と金融政策

 原油高騰に投機資金が大きな役割を果たしているといわれますが、そんなに世界中をぐるぐるしている資金なら、自分の国の株式市場などに流れ込んでくれれば、景気が良くなったり国債を引き受けてくれたりして都合がよさそうです。1980年代前半、アメリカはそういう政策を採りました。昭和60年版世界経済白書にそのへんの事情が解説してあります。

 アメリカは世界から資金を集め、安定的にアメリカにとどめるために、ドル高・高金利政策を取りました。

 いま、オーストラリアやニュージーランドは日本よりはるかに高金利です。日本の金融機関に行けば、こうした国の貨幣で貯蓄して、満期になったらまた円に換えて受け取る金融商品がすぐ手に入ります。しかしちょっとググってみると、為替手数料と円安リスクに注意しろ、という体験者の記事がたくさん引っかかります。円→豪ドル→円と2回両替するときの手数料率がけっこう高いことがあり(金融機関と預金の種類などによります)、もし満期時に円安になっていたら、円安による目減りと手数料が金利差を上回ってしまう可能性があるのです。だから投資を受け入れる国の立場に立つと、ドルで資産を持ってもらうためには、ドル安の懸念を持たせてはいけないのです。当時すでにアメリカの貿易赤字は問題になっていて、むしろアメリカはドル安方向への是正を言い出しても良かったのですが、そうしませんでした。

 当時まだアメリカはインフレ対策のため、高金利を政策的に維持する必要もありました。そしてアメリカの景気が回復し始めても引き締めを続けたので、資金需給は逼迫し、海外資金がそれを補うように入ってきました。しかしドル高と高金利は、すでに多額の債務を抱える途上国には致命的で、累積債務問題が顕在化し、アメリカでも海外債務の焦げ付きなどからコンチネンタル・イリノイ銀行破綻という大事件が起きました。要するに他国にとっては迷惑であったので、1985年9月にプラザ合意という画期的な合意が取り付けられ(当時は明らかにされませんでしたが、協調介入で為替を安定させるべきゾーンについても各国が合意したといわれます)、劇的なドル安方向への調整が行われました。

 いま、日本は空前の低金利を続けています。逆に日本で借りて他国に資金を持っていくキャリートレードが盛んに行われたほどです。海外資金を呼び込むには、むしろ高金利への誘導が必要なはずですが、これは同時に国内景気を冷やしてしまいます。

 もうひとつ、日本経済には出口があります。いや、出口があると思わせたがっている人たちがいるように感じます。消費者がもっと借金をすることです。だって空前の低金利なのですから。借金をして消費を増やせば、景気が上向いて、結局所得も増えるはず。そして担保となる不動産の価値も、住宅投資に火がつけば維持されます。

 しかしそれ、数年前に日本の目の前でアメリカがコケたコースそのものなのです。不動産バブルが止まったとたん、もともと無理だった不動産担保貸付に焦げ付きが急増しました。それが要するにサブプライム問題です。

 市場を通じた所得再分配は否応なくみんなを巻き込みます。議会で水掛け論をする必要がありません。ただ、いま日本に必要なのは、まさにそれではないかと思います。何が起きているか、時間がかかっても国民が知ること。それを経て先行きの不透明感を払うこと。もちろんそんなに愉快な未来が待っているわけはないのですが、ローン枠が広がる小さな幸せを所得増加と勘違いするよりましです。メリルリンチもシティも野村も大損をこしらえるような市場環境で、いま一般市民に難しい計算をさせるべきではありません。