非常に大雑把な経済政策のはなし

http://hnami.or.tv/d/index.php?diary081225:Title=市街地価格指数(全国、全用途平均)

出典 http://www.stat.go.jp/data/chouki/22.htm:Title=総務省統計局『日本の長期統計系列』表22-20 原データはhttp://www.reinet.or.jp/:Title=日本不動産研究所「市街地価格指数」

 どうもHatenaに画像を置くと極端に表示が遅くなるので、リンクで失礼します。

 このグラフは日本の市街地での土地価格(1955年〜2005年)を指数化したものです。この種の指数化にはどこか無理があるものですが、「少なくとも1955年以降、ある時点まで日本の地価は単調に上がり続けていた」ことははっきりわかります。グラフの頂点である「ある時点」は1991年。1980年代後半から1991年(「バブル崩壊」が起こったとされる年)まで、理屈はともかく、実態として日本の地価は上昇率が鈍ることはあっても、ほとんど下がることはありませんでした。日本の地価は下がらないという「土地神話」にはデータの裏づけがあったのです。

 このような状態では、赤字の中小企業でも土地を担保にすれば融資を受けることが出来ました。おそらく金融機関にとっても、当てにくい業績予測に時間と費用をかけるより、不動産評価だけで融資を決めたほうが利益になったでしょう。

 ちょっと横道に逸れますが、赤字法人の割合はどうすれば知ることが出来るでしょうか。何と言っても一番良く事情を知っているのは税務署です。http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/jikeiretsu/01.htm:Title=会社標本調査結果(税務統計から見た法人企業の実態)に元のデータがありますが、便利にまとめられたものとしてhttp://www.kantei.go.jp/jp/zeicho-up/1027/index.html:Title=税制調査会法人課税小委員会平成7年10月27日報告http://www.kantei.go.jp/jp/zeicho-up/1027/1-2.html#3-7:Title=1975-1993年のデータがあります。1975年には43%であったものがじりじり上がり、バブル期にいったん減少傾向になったものの、近年では65〜70%となっていることがわかります。

 話を戻しましょう。http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%95%E3%83%AD%E3%83%BC:Title=キャッシュフローの管理をしくじって、設備などはあるのに運転資金が足りなくなって黒字倒産というケースは、確かに経済学の初歩的教科書から外れたケースですが、論文レベルでは「流動性制約(liquidity constraint)」の存在はずいぶん昔から意識されてはいます。興味のある方はhttp://www.ier.hit-u.ac.jp/~ifd/doc/MC2008-3.pdf:Title=こちらの論文のReferencesからイモヅル式にたどるとよいでしょう。もし流動性制約がなかったら古典的なhttp://en.wikipedia.org/wiki/Modigliani-Miller_theorem:Title=モジリアーニ・ミラーの定理が示すように、個人や会社に応じた誰でも納得するリスクプレミアムが決まって、その利率で必要なだけお金が借りられるはずですが、不確実性とか制度とか(当然の)駆け引きとかで、そういうことにはなりません。

 要するに企業の収益性を銀行や格付機関がぴったり予測できるようになれば、高金利を提示されて現実の重さに泣く人はいても、基本的に(物理的に逃げてしまいそうな人や、逃げると捕まえられないような治安情勢だったら別ですし、借りてそのあと負担に耐えられるかはもうひとつ別ですけど)融資を断られることはないはずです。予測できればね。

 条件を甘めにしてとにかく貸しちまえ、という行動が政治的に要請されたり、実行されたりすることはあります。当然採算は合わないはずですから、これはまあ別問題とします。

 収益性が予測できないときは、http://www.mbs-con.com/bank2_scoring.html:Title=スコアリング審査を取り入れるとか、http://www.mn-con.jp/article/13248808.html:Title=シンジケートローンで個々の銀行にとってのリスクを小さくするとか、いろいろな工夫が試されています。まあそれでも、経済全体に収益機会が少なくなっているなら、それをつかみにいく起業家が少ない、融資をする人も少ない、という状況は経済学の理屈上もありうることです。

 アメリカが不動産バブル崩壊でこけ、その債権をつかんで一緒に儲けていた欧米がこけ、そこへ輸出していた資源国(とくに産油国)がこけ、じわじわと影響が資源国以外の輸出国に及びつつある、というところですね。アメリカと欧米はこのさい累積赤字を無視した財政出動に出ました。これは将来の増税やインフレにつながりますから、為替レートを見る限り、比較的損害が少なく金融政策が消極的な(良くも悪くも何もしない)日本に金融資産が集まってきているようです。いま世界最高の金融資産は円かもしれません。持っているだけで円高が期待できますから、あわてて日本株や日本国債を買ってリスクを負う必要もありません。相対で非公開株や不動産が取引されても、統計に表れづらいし、時間もかかりますから、何が起こっているかさっぱりわからないのが正直なところですが。

 欧米にとって望ましいのは、日本がお金を使ってくれることです。日本は昔とは違って、製品輸入も盛んになりましたから、日本で消費が伸びれば世界中に仕事が出来ます。もし累積国債財政出動の足かせになるなら、その負担を弱めるための人為的インフレ政策に欧米は反対しないでしょう。それは円安誘導効果を持ちますが、それにも文句は言わないでしょう。事実上、円は価値が傷ついていない唯一の主要通貨です。円に先高感がある限り、円そのものが魅力的な金融商品となりますから、黙っていても海外資金が入ってきます。その円資金が消費や投資で海外に還流しなければ、かつてのアメリカの金不胎化政策と同様に世界の資金循環を縮小させてしまうでしょう。

 さて、この状況に対して日本はどうすべきでしょうか。ある点において麻生首相は惜しいところまで行って、引き返してしまいました。それは、低所得者の所得を把握する、お金はかかるが信頼性の高い仕組みを作ることです。不完全なものであれ、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%A0%E3%81%AE%E6%89%80%E5%BE%97%E7%A8%8E:Title=負の所得税」を実施するなら、今がそのときです。日本は源泉徴収制度にこだわりすぎて、政府が家計単位の所得を把握するデータを根本的に欠いているのです。これによって消費税率が上がったときの逆進的な影響をやわらげることができますし、低所得な若者と低所得な老人という、最も政策的に重要なグループに絞り込んだ政策を実行できます。

 私は、日銀の事務局的側面をもっと国民が意識すべきだと思います。日本銀行総裁を含め、政策委員会に日銀生え抜きの人物は常に含まれているようですが、多数派ではありません。パラシュートのように降りてきた少数の偉い人と、タテマエとしてはその意を受けて働く多数の行員。しかも事実上非営利組織で、不況期には不満が集中しますが、好況期に「業績が上がる」ことはありません。これでは減点主義で、保守的な運営を志向してもまったく不思議ではありません。

 それが良いことであるか、判断するのは難しいことです。「http://www.fitweb.or.jp/~nkgw/frogs.htm#1:Title=蛙の王様」というイソップ寓話がありますね。グリーンスパン王はカエルたちに多くのエサをもたらして数年間栄えさせましたが、毒エサが混じることを防げず、カエルたちに不健康を蔓延させてしまいました。そしてそれが具現化したのは王の治世が終わった後でした。いま日本には、白川王が丸太ん棒だと非難する人がたくさんいますが、白川王の代わりに10年後の日本経済と世界経済を見通せる人はいるのでしょうか。もし日銀総裁が政治的要求に敏感な人だったとしたら、それは海外から日本への要求をエスカレートさせる要因にならないでしょうか。麻生首相自民党が日銀を操りきれないことはみんな知っているので、海外から日銀への要求が政府に直接ぶつけられない、ぶつけられても弱い、ということはないのでしょうか。

 日本銀行http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/ac07/ac081220.htm:Title=2008年12月20日現在、短期・長期合わせて67兆円の国債保有しています。http://www.boj.or.jp/type/stat/boj_stat/ac/ac050320.htm:Title=2005年3月には100兆円を越えたこともあったのですから、ずいぶん減っています。それにしても、100兆円くらい持っていてもハイパーインフレは起きなかった、という実績は残ったわけです。2001年の量的緩和政策導入にあわせ、保有国債のうち長期国債を日銀券発行残高の範囲にとどめるというhttp://www.boj.or.jp/type/release/zuiji/kako02/k010319a.htm:Title=金融政策決定会合の決定がなされて、現在もこれが上限として有効です。インフレターゲットを公表しても、実際の政策手段を追加しなければ願望の表明に過ぎませんから、もっと思い切った国債買い切りオペを行って国債値上がり(利回り低下)とインフレ誘導(実質金利低下)の両面から財政の足かせを緩めるのは魅力的な政策だと思います。少なくとも強烈な円安誘導にはなると思いますよ。