セブンイレブン排除命令をめぐって

セブンイレブン・ロスチャージ事件の最高裁判決出る
http://www.news.janjan.jp/business/0706/0706157307/1.php

株式会社セブン−イレブン・ジャパンに対する排除措置命令について
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.june/09062201.pdf


フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」の改訂について(改正後ガイドラインを含む)
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/02.april/02042402.pdf

フランチャイズ・システムの本部と加盟者との取引に関する公正取引委員会の取組について
(「コンビニエンスストアにおける本部と加盟者との取引の実態調査」を含む)
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g30529b04j.pdf

に次の「ヒアリング調査」による「指摘」があります。

 ロイヤルティの算定の基礎となる売上総利益は「売上高−売上原価」と理解していたが,実際には,売上総利益は「売上高−売上原価+廃棄ロス」として算定され,廃棄商品についてもロイヤルティがかかる仕組みとなっていた。このことについて加盟募集時の本部からの説明では理解できなかった。(p.7)


最高裁判所が「セブンイレブンは廃棄等のロスにもチャージをかけて(ロイヤルティ徴収の対象として)いる」ことを公式に事実認定したのはH17の判決ですが、公正取引委員会はH13時点ですでにこの問題を(証拠は提示できないものの証言としては)認識する調査結果を公表し、それに基づいたガイドラインをH14に公表していました。

例えばロイヤルティを粗利益の40%と定めたとします。100円で仕入れ、150円で売ろうとしている商品が売れ残って廃棄になると、コンビニ店主は仕入先に100円、チェーン本部に40円を支払うことになります。

それにしてもなぜロスの100円からロイヤルティを取られるのでしょうか。例えばこの店は売上高2000円、仕入高1500円だとしましょう。粗利益はその差である500円だと思えます。しかしコンビニの契約では、ロス分の仕入高を仕入高から除くことになっている、というのがここでの問題です。だから売上高2000円、仕入高1400円、差額は600円となって、600円の40%(240円)をチェーン本部が持っていくわけです。

最高裁判所は、そういう契約が禁止されているわけではないが、契約時によく説明されたかどうかをポイントとして審理しなおせ、と高等裁判所に差し戻す判決を出しました。要するにコンビニ店主と本部の手数料交渉のようなものですから、安いからといって違法になることは滅多にないわけです。

ところが店主たちは新戦術を編み出しました。1円廃棄です。

コンビニ業界、「1円廃棄」の衝撃
http://blog.goo.ne.jp/dancing-ufo/e/fdd8622c034b2c6d0a342a30b8a4936b

廃棄するかわりに1円に値下げして、コンビニ店主自身が買ったことにします。こうすると100円を仕入高から差し引く必要がないので、売上は2001円、仕入高は1500円。チェーン本部に払うお金は240円でなく、200円余りになります。

これをチェーン本部が禁じたことが、「力関係を背景に自由であるべき価格設定を制限した」と排除命令の対象となったわけです。

つまり、争点は環境問題にあるわけでも、鮮度を大切にする販売戦略の是非にもなく、その販売戦略を実行するためのコスト分担ルールにあったわけです。値引販売が「1円廃棄」のことであるなら、それは消費者の手に渡らず、店主か店員の腹に納まっているか、捨てられているはず。まあ注目を浴びたことで、これからは安く店頭に並ぶ分が増えるでしょうけど。

排除命令を受けた直後の6月23日、セブンイレブンはこんなことを発表しました。

加盟店様における廃棄ロス原価の15%を本部が負担いたします
http://www.sej.co.jp/corp/news/2009/pdf/062303.pdf

上の例でいうと、廃棄した仕入高100円の15%をチェーン本部が負担するということ。上の例だと、店主の負担は140円から125円に減ることになりますね。実際のセブンイレブンのロイヤルティは企業秘密ですが、15%というのはロイヤルティとしてはありえないくらい低い数字ですから、損失の全部を負担するわけではありません。

セブンイレブン、廃棄分の原価15%負担 年100億円
http://www.asahi.com/business/update/0623/TKY200906230277.html

本部の年間の負担額は約100億円の見込み。


 朝日新聞の取材してきた100億円という数字は、セブン&アイコンビニエンスストア事業からの営業収益2134億円(平成21年2月期)に対して5%ほどです。つまり仮に平均的なロイヤルティが45%で、コンビニ店主たちが1円廃棄に走れば、セブン&アイコンビニエンスストア事業は営業利益の15%を失う、ということになりますね。

株式会社 セブン&アイ・ホールディング 平成21年2月期 決算短信
http://www.7andi.com/news/pdf/2007/20090409_01.pdf

綱引きは今始まったばかり。しばらく様々な応酬があるでしょうね。