日銀にインフレなんか起こせないんじゃなかろうか

http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT2M1201D%2012062009&g=G1&d=20090612
米家計の負債、圧縮続く 1〜3月、貸し渋りや消費抑制で(NIKKEI.NET)

米連邦準備理事会(FRB)が11日発表した2009年1〜3月期の資金循環統計によると、同期末の負債(季節調整済み)は2四半期連続で減少し13兆7949億ドル(約1350兆円)だった。前期比の減少率は年率換算で1.1%。

 家計部門の負債のうち住宅ローンは10兆4618億ドルでほぼ横ばい。一方、カードローンや自動車ローンなどの消費者信用は年率で3%以上減った。


ちなみに原データはこちらです。

http://www.federalreserve.gov/releases/z1/

さて、じつは今回はインフレの話をしようと思っています。各国の中央銀行が通貨供給を増やしたとき、それは物価を上昇させる効果を持つ、とぼんやりと信じられていますが、その道筋について一致した明確なイメージがあるわけではありません。しかし「どこかの」「なにかの」市場で買い手が価格を吊り上げることがすべての出発点になるはずです。買い手の財布にたくさんの紙幣が入っていると、価格つり上げが起こりやすくなるはずだ、というわけです。

日本銀行は既発国債の買いオペという実質的な国債引き受けを行ってまで資金供給を続けてきましたが、いっこうに日本はインフレになりませんでした。「もっと国債を買えばそのうちインフレになるはずだからもっと買え」という意見もありましたし、「とにかくインフレになるまで買って買って買いまくるという約束をしろ」という意見もありました。

最近、ふっと気づいたのです。根本的なことがひとつ抜けていると。

膨れ上がった財布の中身が、フローの生産物を買うために使われて、初めてフローの世界がインフレになるのだと。他の使い道だと、そうならないと。

日本でじゃぶじゃぶと供給された資金を借りて両替して持ち出し、外国株や商品市場に投じれば、日本の国内産品へ資金は直接向かいません。

ちゃんと起きていたのです。日本でのインフレの代わりに円安が。そして国外に持ち出された資金による原油高と小麦高、そしてたぶんアメリカなどの株高が。

おそらく日本がもっと国債を買えば、もっと小麦や原油が上がるだけでした。それは日本を含め、世界で少しずつコストプッシュインフレを起こす要因になったでしょう。それは国によっては歓迎すべきことだったかもしれません。日本の建設業界も産油国の大型プロジェクトで仕事をもらっていたわけですから。しかしバブルは加速されたはずです。もっとも、バブルが早くはじけることで問題処理が早くなり、傷も浅く済んだ人や国が出たかもしれませんが。

デフレ対策としての日本の貨幣供給増大は、その目的には最初からほとんど無力だったのではないでしょうか。大増税と政府支出・所得再分配の組み合わせで国内貯蓄を強制的に取り崩せば、好況とデマンドプルインフレがいちどにやってきたでしょう。それは(政策としてコストを上回るメリットがあるのか、という当然の疑問は脇に置いて)政治的に無理だったから、誰しも日銀のほうを向いたわけですが、現在のグローバル化した金融市場をどうすることも出来ないとしたら、日銀だけでは日本にインフレなど起こせないのではないでしょうか。もちろん、それは円安誘導政策として2006年ごろから2008年秋まで、日本の景気を立派に引っ張ったわけですが。

さて、ドルはそうはいきません。ドル建て資産は相対的に巨大すぎて、まとまったドル建て資産が出入りすれば中小経済圏のあらゆる価格が乱高下してしまうからです。だからドルを刷り増せば、世界同時インフレに火がつくはずです。また、円がそうであったように、ドルの相対的な高金利をもたらす貨幣供給・金融緩和策でポンドやユーロが突出すれば、自国通貨安とドル供給につながるはずです。そしてインフレ懸念から、ドル金利高をドル供給増大で抑制することはためらわれています。

冒頭に上げたように、アメリカ家計は(雇用停滞下の)高金利で債務圧縮を志向しています。当然過ぎるほど当然です。債務を返すとは、貯金をすること。所得の一部しか消費しないこと。このギャップを世界のどこかで埋める必要があるわけです。出来ればドル圏でない低利のところで。でなければ結局最後はドル発のインフレとドル暴落が起こり、特に日本などは対米輸出が麻痺すると、超弩級円高不況になる恐れがあります。