バブルキャリア
世界のストックが巨大になりすぎ、その移動と消長がフローの市場(要するに景気)を乱してしまうのが最近のパターン。
中国の不動産を中心とするバブルを懸念する記事は最近良く見かけるようになりましたが、今度はオーストラリアでも。
Australia Tries to Avoid a Housing Bubble(Wall Street Journal Aug 3, 2009 By JAMES GLYNN )
そういえばオーストラリアドルは最近高いですね。オーストラリアの輸出先第一位は中国で、中国の景気が良くなるとオーストラリアは確かに「買い」なのですが。
いっぽう、投資ファンドは巨額の有利子負債を抱え、世界的にリファイナンスが課題になっているとか。
巨額の有利子負債を抱えて「税金を払わない成長重視の経営」として知られた会社がかつて日本にもありましたね。投資ファンドは企業の支配権を握れるほどの株式を一気に買って、経営再建なり含み益資産の切り売りなりを進める仕事ですから、自由になる資金をキープしておく必要があります。値上がりさせて売り払える資産が見つからなくなると、有利子負債が収益を圧迫し、リスキーな借り手だとみなされて高い利子でしか借りられない悪循環が始まります。
アメリカの金融機関へのストレステストが「おおむね問題なし」の甘い結果になってかえって不良債権処理が急がれなくなり、大型倒産の火種が残ったとも言われますが、新たなバブルにのめりこんで止めを刺されるファンドや金融系企業が出ないことを祈ります。
東京と地方の私学をめぐる状況判断
私大の46.5%定員割れ 短大は過去最高の69.1%
http://www.asahi.com/national/update/0730/TKY200907300432.html
日本私立学校振興・共済事業団
http://www.shigaku.go.jp/s_center_menu.htm
また、4年制私大の入学定員充足率を地域別にみると、大学が多い東京と京都で昨年度より2ポイント程度下がる一方、北海道、東北(宮城県を除く)、甲信越、中国(広島県を除く)、四国では2〜6ポイント上がった。事業団は「これらの地域では、不況の影響で地元志向が強まった可能性がある」と分析している。
と記事にあるんですが、もとになった文書と数字を見ると、もう少し現実はシビアだと思うんです。
業界外の皆様にあまりなじみがないのが、もとになった文書p.8の「歩留率」。合格通知を出してどれくらい入学してくるかという率で、この率が分からなければ定員割れや取りすぎが起きるんですが、現実には分かりません。前年度実測値を基礎に予想するんですが、潮目だと大ハズレということもあります。
さて、その歩留まり率ですが、東京は歩留率が1%の上昇、京都は0.14%の微減。つまり受験者の行動で入学者が減ったとすると、歩留率は大きく下がるはずなんですが、大学側の予想通りかそれ以上の入学者を得ています。つまり、大学が意図的に合格通知を控えたということでしょう。とくに東京は、併願があるので解釈が難しいとはいえ、志願者合計がむしろ増加しています。
逆に、北海道と四国は入学定員減、宮城を除く東北、甲信越、広島を除く中国は合格率アップ(合格通知をたくさん出した)が大きな要因として働いています。四国の歩留率急伸は、前年まで歩留まりを保てないのを承知で合格通知を多く出していた課程が募集を止めた(入学定員減)せいだと思われます。全国平均の歩留率は1%ほどの微増ですから不況の影響はマクロ的にはあるのでしょうが。
現状が横ばいであるという分析は正しいと思いますが、地方と小規模校が苦しいという従来のパターンが変わる兆しはまだ見えないようですね。
セブンイレブン値引き販売続報
前にも書きましたが、セブンイレブンの値引き販売で、仕入価格以下での値引販売はやめるようお願いしようとして、どう書いても法令に触れるのであきらめ、その場合はすでに発表している本部の15%のコスト負担はなしね、全部自腹ね、ということで落ち着きそうだと新聞が報じています。
一部のショップが極端に低い値引きをして廃棄分からのロイヤルティ支払を避けているといわれる件について、それがどれくらい一般的なことなのか、私は判断する材料がありません。本部との関係を悪化させる行為なのは間違いないので、腹をくくった加盟店だけだろうと想像はしますが。ただ日本の法制では仕入価格未満での販売は継続性などがない限り違法とはみなさない判断が積み重なっていますから、まあ公取委としては値引きするなという本部指導は認めないでしょうね。
社会人大学院
当社(埼玉大学大学院経済科学研究科)もSEOの何たるかを心得たスタッフがちゃんといるわけで、広報担当者がやいのやいの言ったり言われたりして「修士課程」は正式名称じゃないから「博士課程前期」とちゃんと書くべきだとか、いやキーワードを目いっぱい盛り込まなくてどうするとか部内の議論は結構真面目にあるわけです。
ただ「社会人大学院」でググると430万ページくらいヒットしてスポンサー広告すら1ページに収まりきらない現状があるわけで、なかなか簡単に浮上できるものじゃありません。よく見るとマスコミや広報専門の企業が立ち上げたサイトが最初のページでは半分くらいを占めていて、そんなサイトがこんな数あるんじゃあ、ますますもって大変です。
それに伍して個人のブログがかなり上位に食い込んでいます。すくなくとも一生懸命キーワードを埋め込んだ当社の公式ページより上に行ってます。どうもはてダなど大手のブログは、更新が盛んだと過去ログのエントリまでヒットしやすくなるんじゃないかと思うことがあります。まあ数日更新をサボるとすぐ落ちるんですけどね。
ええ。すみません。このエントリは実験というか何と言うか、このページが「社会人大学院」で上位に引っかかる日が来るかどうか試してみようと思うわけで。
追記 8月1日現在、google「社会人大学院」で108位まで来ました。なんというかSEOって対策の応酬だから油断もスキもないですね。「社会人大学院」で本当にこのエントリに突き当たった方はこちらのコンテンツをお読みいただければ幸いです。
「大人のやること」とヤミ金融
「大人のやることだから」というのは、無茶な意思決定をする知人を放置するときによく使われる言い訳。本人がシアワセで他人に迷惑をかけないなら、文句はつけられないものです。
消費者金融、審査強化で成約3割 厚労省制度見直しへ(asahi.com) 2009年7月26日
消費者金融における融資の「成約率」が、3割を切って低迷している。新たに融資を申し込んだ10人のうち、借りられたのは3人もいない状況だ。貸金業法の全面施行を控えて業者側が審査を強化しているためだが、借りられなかった人が違法なヤミ金融に頼る可能性もある。
売りたい人と買いたい人がいれば、バカ高くてもバカ安くてもとにかく市場価格はつくもの。融資の利率も同様で、まあ実際には逃げたとき追っかけるコストと手間などがあるので何ともいえませんが、危ない相手でも非常に高い利率を払ってくれるなら貸し手はいるはずです。
出資法、貸金業法を調整してグレーゾーン金利を撤廃する一連の法律施行は2009年12月に最終段階を控えていますが、「高い金利での取引」を禁止したために、「高い金利でしか借りられない借り手」は非合法市場での取引でしか市場金利での融資を受けられなくなりました。
例えば東京都大田区が財政負担覚悟の中小企業融資を拡大して話題になりましたが、市場で成立しているのと異なった金利で貸せば借り手と貸し手のどちらかが機会費用を被るわけで、そんなことをするのは特定の目的に沿った融資をする公的機関くらいのものです。
最低賃金は確かに国民の生活水準保証を考慮した数字であるべきですが、高くすれば工場を移せる企業は国外へ逃げ、国外労働者による安価な製品が入ってきます。また研修生制度の悪用などが成功したとき、ライバルとのコスト差がますます開くことになりますから、法を犯す誘惑も増すのです。ヤミ金融とグレーゾーン金利撤廃の関係もこれに似ています。
市場は確かに万能ではないのですが、人が関わって限りあるものを公平に分けようとすれば、どうしても不満が残ります。それと向き合っていくのは、あえて言えば有権者みんなが分担し、少なくとも自分の問題として関心を持つべき事柄でしょう。
むかし「消費者は王様」という言葉がありました。王様であるなら、失政で首を絞められることもあるわけです。
日銀にインフレなんか起こせないんじゃなかろうか
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT2M1201D%2012062009&g=G1&d=20090612
米家計の負債、圧縮続く 1〜3月、貸し渋りや消費抑制で(NIKKEI.NET)
米連邦準備理事会(FRB)が11日発表した2009年1〜3月期の資金循環統計によると、同期末の負債(季節調整済み)は2四半期連続で減少し13兆7949億ドル(約1350兆円)だった。前期比の減少率は年率換算で1.1%。
家計部門の負債のうち住宅ローンは10兆4618億ドルでほぼ横ばい。一方、カードローンや自動車ローンなどの消費者信用は年率で3%以上減った。
ちなみに原データはこちらです。
http://www.federalreserve.gov/releases/z1/
さて、じつは今回はインフレの話をしようと思っています。各国の中央銀行が通貨供給を増やしたとき、それは物価を上昇させる効果を持つ、とぼんやりと信じられていますが、その道筋について一致した明確なイメージがあるわけではありません。しかし「どこかの」「なにかの」市場で買い手が価格を吊り上げることがすべての出発点になるはずです。買い手の財布にたくさんの紙幣が入っていると、価格つり上げが起こりやすくなるはずだ、というわけです。
日本銀行は既発国債の買いオペという実質的な国債引き受けを行ってまで資金供給を続けてきましたが、いっこうに日本はインフレになりませんでした。「もっと国債を買えばそのうちインフレになるはずだからもっと買え」という意見もありましたし、「とにかくインフレになるまで買って買って買いまくるという約束をしろ」という意見もありました。
最近、ふっと気づいたのです。根本的なことがひとつ抜けていると。
膨れ上がった財布の中身が、フローの生産物を買うために使われて、初めてフローの世界がインフレになるのだと。他の使い道だと、そうならないと。
日本でじゃぶじゃぶと供給された資金を借りて両替して持ち出し、外国株や商品市場に投じれば、日本の国内産品へ資金は直接向かいません。
ちゃんと起きていたのです。日本でのインフレの代わりに円安が。そして国外に持ち出された資金による原油高と小麦高、そしてたぶんアメリカなどの株高が。
おそらく日本がもっと国債を買えば、もっと小麦や原油が上がるだけでした。それは日本を含め、世界で少しずつコストプッシュインフレを起こす要因になったでしょう。それは国によっては歓迎すべきことだったかもしれません。日本の建設業界も産油国の大型プロジェクトで仕事をもらっていたわけですから。しかしバブルは加速されたはずです。もっとも、バブルが早くはじけることで問題処理が早くなり、傷も浅く済んだ人や国が出たかもしれませんが。
デフレ対策としての日本の貨幣供給増大は、その目的には最初からほとんど無力だったのではないでしょうか。大増税と政府支出・所得再分配の組み合わせで国内貯蓄を強制的に取り崩せば、好況とデマンドプルインフレがいちどにやってきたでしょう。それは(政策としてコストを上回るメリットがあるのか、という当然の疑問は脇に置いて)政治的に無理だったから、誰しも日銀のほうを向いたわけですが、現在のグローバル化した金融市場をどうすることも出来ないとしたら、日銀だけでは日本にインフレなど起こせないのではないでしょうか。もちろん、それは円安誘導政策として2006年ごろから2008年秋まで、日本の景気を立派に引っ張ったわけですが。
さて、ドルはそうはいきません。ドル建て資産は相対的に巨大すぎて、まとまったドル建て資産が出入りすれば中小経済圏のあらゆる価格が乱高下してしまうからです。だからドルを刷り増せば、世界同時インフレに火がつくはずです。また、円がそうであったように、ドルの相対的な高金利をもたらす貨幣供給・金融緩和策でポンドやユーロが突出すれば、自国通貨安とドル供給につながるはずです。そしてインフレ懸念から、ドル金利高をドル供給増大で抑制することはためらわれています。
冒頭に上げたように、アメリカ家計は(雇用停滞下の)高金利で債務圧縮を志向しています。当然過ぎるほど当然です。債務を返すとは、貯金をすること。所得の一部しか消費しないこと。このギャップを世界のどこかで埋める必要があるわけです。出来ればドル圏でない低利のところで。でなければ結局最後はドル発のインフレとドル暴落が起こり、特に日本などは対米輸出が麻痺すると、超弩級の円高不況になる恐れがあります。
セブンイレブン排除命令をめぐって
セブンイレブン・ロスチャージ事件の最高裁判決出る
http://www.news.janjan.jp/business/0706/0706157307/1.php
株式会社セブン−イレブン・ジャパンに対する排除措置命令について
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.june/09062201.pdf
「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」の改訂について(改正後ガイドラインを含む)
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/02.april/02042402.pdf
フランチャイズ・システムの本部と加盟者との取引に関する公正取引委員会の取組について
(「コンビニエンスストアにおける本部と加盟者との取引の実態調査」を含む)
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g30529b04j.pdf
に次の「ヒアリング調査」による「指摘」があります。
ロイヤルティの算定の基礎となる売上総利益は「売上高−売上原価」と理解していたが,実際には,売上総利益は「売上高−売上原価+廃棄ロス」として算定され,廃棄商品についてもロイヤルティがかかる仕組みとなっていた。このことについて加盟募集時の本部からの説明では理解できなかった。(p.7)
最高裁判所が「セブンイレブンは廃棄等のロスにもチャージをかけて(ロイヤルティ徴収の対象として)いる」ことを公式に事実認定したのはH17の判決ですが、公正取引委員会はH13時点ですでにこの問題を(証拠は提示できないものの証言としては)認識する調査結果を公表し、それに基づいたガイドラインをH14に公表していました。
例えばロイヤルティを粗利益の40%と定めたとします。100円で仕入れ、150円で売ろうとしている商品が売れ残って廃棄になると、コンビニ店主は仕入先に100円、チェーン本部に40円を支払うことになります。
それにしてもなぜロスの100円からロイヤルティを取られるのでしょうか。例えばこの店は売上高2000円、仕入高1500円だとしましょう。粗利益はその差である500円だと思えます。しかしコンビニの契約では、ロス分の仕入高を仕入高から除くことになっている、というのがここでの問題です。だから売上高2000円、仕入高1400円、差額は600円となって、600円の40%(240円)をチェーン本部が持っていくわけです。
最高裁判所は、そういう契約が禁止されているわけではないが、契約時によく説明されたかどうかをポイントとして審理しなおせ、と高等裁判所に差し戻す判決を出しました。要するにコンビニ店主と本部の手数料交渉のようなものですから、安いからといって違法になることは滅多にないわけです。
ところが店主たちは新戦術を編み出しました。1円廃棄です。
コンビニ業界、「1円廃棄」の衝撃
http://blog.goo.ne.jp/dancing-ufo/e/fdd8622c034b2c6d0a342a30b8a4936b
廃棄するかわりに1円に値下げして、コンビニ店主自身が買ったことにします。こうすると100円を仕入高から差し引く必要がないので、売上は2001円、仕入高は1500円。チェーン本部に払うお金は240円でなく、200円余りになります。
これをチェーン本部が禁じたことが、「力関係を背景に自由であるべき価格設定を制限した」と排除命令の対象となったわけです。
つまり、争点は環境問題にあるわけでも、鮮度を大切にする販売戦略の是非にもなく、その販売戦略を実行するためのコスト分担ルールにあったわけです。値引販売が「1円廃棄」のことであるなら、それは消費者の手に渡らず、店主か店員の腹に納まっているか、捨てられているはず。まあ注目を浴びたことで、これからは安く店頭に並ぶ分が増えるでしょうけど。
排除命令を受けた直後の6月23日、セブンイレブンはこんなことを発表しました。
加盟店様における廃棄ロス原価の15%を本部が負担いたします
http://www.sej.co.jp/corp/news/2009/pdf/062303.pdf
上の例でいうと、廃棄した仕入高100円の15%をチェーン本部が負担するということ。上の例だと、店主の負担は140円から125円に減ることになりますね。実際のセブンイレブンのロイヤルティは企業秘密ですが、15%というのはロイヤルティとしてはありえないくらい低い数字ですから、損失の全部を負担するわけではありません。
セブンイレブン、廃棄分の原価15%負担 年100億円
http://www.asahi.com/business/update/0623/TKY200906230277.html
本部の年間の負担額は約100億円の見込み。
朝日新聞の取材してきた100億円という数字は、セブン&アイのコンビニエンスストア事業からの営業収益2134億円(平成21年2月期)に対して5%ほどです。つまり仮に平均的なロイヤルティが45%で、コンビニ店主たちが1円廃棄に走れば、セブン&アイのコンビニエンスストア事業は営業利益の15%を失う、ということになりますね。
株式会社 セブン&アイ・ホールディング 平成21年2月期 決算短信
http://www.7andi.com/news/pdf/2007/20090409_01.pdf
綱引きは今始まったばかり。しばらく様々な応酬があるでしょうね。